アドベンチャーゲーム『A Short Hike』の感想。プレイしたのはSteam版だが、Nintendo Switchでもダウンロード版がリリースされている。開発はカナダのインディーゲームスタジオadamgryuで、記事執筆時点の価格(定価)はSteam版が820円、Switch版が850円。
プレイヤーが操作するのは鳥の少女クレア。ある夏、親戚のおばさんが管理人を務める州立公園に連れてこられたクレアが、その島にある『ホークピーク山』の山頂を目指すゲームだ。ホークピーク山はなかなか険しく、簡単には登れない。オープンワールド形式の島を自由に歩きまわりながら、島にいる動物たちと交流を重ね、必要なアイテムやヒントを集めて山頂を目指す。
普通に進めれば2時間前後で終わってしまうが、本作はゲームというより大人向けの少し長い絵本を読んでいる感覚に近く、費用対効果的な意味で「たった2時間で終わってしまった」という気持ちにはならないと思う。でも、「もっとこの作品の世界を味わいたかった」という意味では「たった2時間で~」と思うかもしれない。
やさしい世界で動物たちと交流を重ねることで、穏やかに、ゆったりと、物語とも表現し難い小さな出来事が積み重なっていく。ひとつひとつの出来事は些細なものだが、どれも印象深い。いかにもオープンワールド的なお遣いクエストさえ、プレイヤーの心をつついてくるような表現で「思い出」にさせてくるような演出が多いのだ。英語力がないので翻訳の精度についてはなんとも言えないが、日本語テキスト(キャラクターのセリフの言い回し)も秀逸。
オープンワールド形式ではあるが舞台となる島はそれほど広くないので退屈に感じる移動も少なく、切れ目なくイベントが発生するので濃密な体験ができる。イベントの種類も、先述のお遣いクエストから、釣りやスポーツなどのアクティビティ的なものまで豊富で飽きない。基本的にイベントをこなせばアイテムや手がかりを入手できてメインシナリオも確実に進むので主人公の成長も早く感じられ、ゆったりとした時間の流れの中でもゲーム自体はサクサク進んで気持ちいい。
操作感については可もなく不可もなくといった印象。視点の問題か方向キーの入力にやや慣れが必要で、うまく操作できず道を外れて川に落ちたり高台に登る途中で崖から滑り落ちてしまったりしたことがあったが、作品の性質上あまり問題にはならない。多少アクション要素のある作品だが、難易度が高いわけではないので方向キーの件もさほど問題にならずストレスにも感じなかった。
このゲームのアクション面での醍醐味は間違いなく「滑空」だろう。主人公のクレアは鳥なので、翼を広げて滑空することができる。展望台などの高いところから飛び降りてゆっくりと滑空するのは独特の気持ちよさがあり、意味もなく滑空するためにわざわざ高いところを探して登りたくなる。
グラフィックやサウンドも素晴らしい。初代プレステあたりを思わせる粗めのポリゴンやビットマップフォントは作品の世界観とよく合っているし、アコースティックなサウンドもゲームの世界に自然と溶け込み心地良い。あらゆるものの調和が取れていてゲームの世界にすっと入っていけるし、ついつい長居してしまう。
ゲームの性質上、万人に受け入れられるものではないと思うが、公式サイトやSteamページの動画・スクショを見てピンときたら幸せな時間を過ごせると思う。ちょっとした空き時間や大作ゲームの合い間でも楽しめるので、ぜひプレイしてクレアの小さな冒険の結末を見届けて欲しい。
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