『黄昏ニ眠ル街』感想-美麗で味わい深い街探索ゲーム-

アクションアドベンチャーゲーム『黄昏ニ眠ル街』の感想。今年2月の『Steamゲームフェスティバル』でダウンロードした体験版で気になり、4月のリリース時に購入していたのに遊ぶのが今頃になってしまった。収集要素があるゲームで実績全解除には程遠いけど、6時間ほどでストーリーはひと通り追いかけた。

本作は大手ゲームタイトルのアートワークやデザイナーとして参加する経歴を持つnocrasさんが個人開発するゲーム。飛行船で旅をしていた主人公のユクモだが、道中の霧に覆われた東洋の街で飛行船が故障してしまう。飛行船を修理するため、そして霧を払い世界の輝きを取り戻すために、世界中に隠された『大地の源』を収集する…というのがこのゲームのストーリーと目的。

ゲームは複数の街(ステージ)で構成されており、それぞれの街で『聖域』と呼ばれるエリアを攻略すると霧が晴れる。聖域を含め街中に散りばめられた『大地の源』を一定数集めると次の街(ステージ)に進める。特定のアイテムを集めると新しいステージが解放されていく感覚はマリオ64とかマリオオデッセイあたりに近い気がする。

アクション要素の強い『聖域』

聖域ではパズルアクションっぽいゲームを楽しめる。幾つかあるステージは動く床や一定時間だけ表示される床にタイミングを合わせて飛び移ったり、スイッチを正しい順番に押したりと、多種多様なギミックが用意されていて飽きない。キャラクターの少しクセのあるふわっとした挙動に慣れるまで少し時間はかかったけど、難易度も途中で投げ出したくなるようなものではなく程々(ヌルゲーマーな僕が程々と感じるぐらいなので、たぶん多くの人にとっては簡単なんだと思う)。

と、ゲームとしてひととおり成立している本作だけど、この作品の最大の魅力は公式サイトやSteamページの紹介文にもあるとおり、「デザイナーであるnocrasさんの描く世界を自由に探索すること」だ。街を隅々まで歩いて風景や世界観を楽しむのが本質で、シナリオやゲーム的な要素は街歩きをより楽しむための要素に過ぎないものなのではとも思わせる。

完全に好みが分かれるところだとは思うけど、僕はnocrasさんがこの作品で描く東洋の街並みが好きだ。ベネチアのように水に囲まれた街、歴史を感じさせる建物が並ぶ石畳の通路、それらの建物や階段が幾重にも重なりひとつの大きな城のようにも見える景観、伝統的に見える街並みに当たり前のように置かれた自販機や室外機は絶妙なリアリティを感じさせる。絵画のような質感で緻密に作り込まれた3D空間は、日中は澄み渡り、夜は町中に灯された淡い照明が美しい。

そんな魅力的な街並みを、 ユクモを操作して隅々まで探検する。細い路地に入ってみたり、水路を走っている船に乗って街を眺めたり、いちばん高い建物の屋根のてっぺんに登ってそこから一気に飛び降りてみたり。パルクールとまではいかないけど、ユクモはゲームの進行に合わせて幾つかのジャンプ技を覚えるので、それらを駆使して街を駆け抜けるのも面白い。フォトモードも用意されているので気に入った風景をスクショとは違う凝った絵作りで画像に残すこともできる。街歩きを堪能してときどきちょっとゲーム的なことをする、というのがこの作品の正しい遊び方なのだろう。

正直なところ、ゲームとして見るとめちゃくちゃ良くできているわけでもないとは思っているし、ストーリーもシンプルでサブイベント的なものもほとんどない。敵も現れず戦闘もなければ、登場人物は主人公のユクモと街に住むネコのようなネズ族のみ。ガッツリゲームを楽しみたいという人や、そもそも絵的に好みでない人には向かない作品だと思う。でも、もしスクリーンショットやイメージイラストを見て自分の好みに合うようであれば、この世界に触れるという1点のみにおいてプレイする価値は十分にあると思う。個人的には「クリア後もときどき起動して意味もなくブラブラしたい、この世界の空気を吸いたい。」と思える作品が増えて幸せ。

記事執筆時点でリリースされているのはPC(Windows)版のみだけど、2021年末にはコンシューマー機でのリリースも予定されているようなので、気になる方は今から公式サイトをチェックしておこう。

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